ポーランド・マザーグース農場を訪れる(2018.1)

2018年1月。ドイツは7~8℃と比較的暖かかったのに、降り立ったお隣の国ポーランドは氷点下と厳しい寒さでした。ポーランド南部、チェコやスロバキア国境にも近い都市クラクフは、ポーランドを南北に流れるヴィスワ川沿いにある中世ポーランド王国の首都として栄えた世界遺産の街です。

ほとんど何もないような田舎道をたどって、クラクフから北へ約60kmほどにあるJeżówkaという街のサイダックさんというマザーグース農場を訪れる機会をいただきました。気温はー3℃、雪がちらつく程度で、今年はまだ暖かいのだそうです。案内してくれたのは、ポーランドの羽毛を扱うANIMEXのヤサコウスキーさん。桃山学院大にも留学されたとのことで、流ちょうな日本語を話されます。

卵を産むためのマザーグース

ポーランドのグースはコウダ種という改良された品種がほぼ98%。コウダ・ヴィエルカ研究所によって厳密に管理されています。ここから提供されたヒナが育ったのがマザーグース。マザーグースは4~5年間飼育され、その期間、2月~6月ぐらいに50~60個ほどの卵を産みます。もちろん卵を産むのは雌のみで、サイダック農場では1400羽のマザーグースが飼育されていますが、雄の割合は20%で雌が80%です。マザーグース農場は生んだ卵を孵化施設に出荷すること+マザーグースから得られる羽毛で収入を得ています。ポーランドにはマザーグース農場が40ヶ所ほどあり、ここはその1つです。

ちょうどサイダック農場では昨年4年間飼育されたマザーグースを全て入れ替えたとのこと、このように全部入れ替えていく方がちゃん管理を行えるのだそうです。だから、今回出会ったマザーグースは、これから卵を産み始める1年生でした。

マザーグースが生んだ卵から孵った雛はレギュラーグース、精肉を得るためのグース農場へ出荷されます。卵の孵化率は83~86% つまり1400羽のマザーグースからは 1400羽×80%×55個×85%=約52000羽のレギュラーグースが生まれることになります。逆に言うと、マザーグースの比率は全体の2.5%程度しかいないということになります。ポーランド全土でいうと600~700万羽のグースが飼育されています。

マザーグースから生まれたヒナが再びマザーグースになることはありません。品種の維持をするためにマザーグースはコウダ・ヴィエルカ研究所からのみ供給されます。

きれいな水、良い環境、放し飼い

良質な鳥を育てるための条件は、きれいな水と良い環境、そして放し飼いです。放し飼いは鳥インフルエンザなどのリスクもありますが、屋内飼育では良いものは決して得られないということです。

事実、昨年は鳥インフルエンザにより、ポーランドのマザーグースの20%にあたる45000羽がと殺処分になり、その影響で全体の飼育数も前年に比べて20%減少したとのことです。これらは全て農家のリスクになるので、なかなか厳しいところですが、十分に広い場所で放し飼いすることは良い羽毛を得るためには絶対に必要なんだとのこと。健康的に育てるには、当たり前といえば当たり前です。

エサは通常はカラス麦などの飼料と、農場の草などですが、産卵時期にはビタミンなどを補強したエサにして栄養バランスを取るように気を付けているということです。

年に4回のハーヴェスティング(ハンドプラッキング)

精肉のために飼育されるレギュラーグース(ミートグース)は16~18週間飼育されますが、羽毛を得ることができるのはと殺後のみです。かつては、成長途上の生え替わり時期(9週、16週、23週等)に、手でプラッキング(手摘み)を行なっていましたが、動物愛護団体が虐待であるというキャンペーンを行なった結果、生きた状態でのプラッキングは行なわれなくなってしまいました。こういった団体はネーチャーテロリストとも云われ、ビジネスとして動物愛護キャンペーンを行なっていますが、羽毛はそのターゲットになってしまったのです。実際には生え替わり時期なので、ほおっておくと土に落ちるだけなのですが・・・・。

しかしながら、マザーグースにおいてはハーヴェスティングということで年に4回ハンドプラッキングが行なわれています。12~1月、4月、7月、10月が一般的で14週ごとに行なわれます。これらから得られるダウンは、鳥が十分に成長していることもあって、良質なものが得られますが、マザーグースの割合から考えても、その量はわずかです。

プラッキングはかつてジプシーが行なっていると聞きましたが、ポーランドにはそもそもジプシーはほとんど無く、専門の職人が順番に農場を回って行なうとのことです。

愛情を持って育てること

サイダック家では、昼前からウォッカを振る舞われながら(一気飲みなので、あとでずいぶん酩酊してしまいましたが)、孵化施設の担当の方もいらっしゃって、いろいろとお話を聞きました。ポーランドでは健康に良いことから鳥の貴族(鳥貴族ではありません)といわれ、飼育数は増えているとのことです。それで、「グースを食べるのですか?」とお伺いしたところ、「グースは私たちの大切な友達だから、決して食べません」という答えが返ってきました。

愛情を持って育てることが、一番大切なことだと実感した瞬間でした。

なのに日本はマザーグースだらけ

現地でいろいろと聞き取りをした結果、改めて確信しましたが、マザーグースって本当に少ないんです。当然、いい卵が産めるように丁寧に育てているから、レギュラーグースより良い羽毛を得ることができます。

レギュラーグースでも良いものは440dpのパワーが出るのに、世の中には410~420dp程度の中級程度(私の店では)のパワーで「マザーグース」と表示されて多く出回っています。思わず「どんなひどい育て方をしたマザーグースや」と思ってしまいますが、出回っている量から考えると、実際にはかなり怪しいものが多いということでしょう。一昨年はフランス産で産地偽装がありましたが、まだまだ根は深そうです。

私はマザーグースと名乗るのなら最低440dpのプレミアムゴールドクラスの質が必要だと考えています。私の店のマザーグースは450dpと460dpの2種類のみです。

ちなみに、ポーランド・マザーダックについて

マザーグースと同様に、マザーダックというものが出回っています。ポーランドで飼育されているダックは確かに飼育数は多いのですが、北京種(チェバリー種)がほとんどです。確かに卵を産むマザーダックはいることは間違いないが、そもそも身体が小さいので良い羽毛を得ることができず、マザーダックだから品質がいいとは言えないとのことでした。

良い羽毛を取るのであれば、マザーダック云々より、ダックの中では身体が大きいミュラー種の方が適しているのです。私どもの店で使っているフランスのダックダウンはミュラー種です。