その昔、夏になると布団の仕立直しをするというのが主婦にとっては大きな行事であった。といっても私自身それを見たことは無く、お客様とのお話しに出てきたことだから、せいぜい昭和40年ぐらいまでのことである。
布団の側を解き、綿を打ち直す。輸入されてきた原綿をほぐし一方向に繊維を揃えてふとんわたにする工程を「打綿」と呼ぶ。江戸時代に弓に綿を絡ませながら綿を打ったことからくる工程は、現在では何百万本もの針が出たシリンダーで綿を梳くことによって行なっている。硬くなって弾力の無くなってきた綿をもう一度打綿して、嵩を取り戻すのが「打直し」である。
木綿が本格的に栽培され始めたのは室町後期といわれるが、木綿わたは高価だった。江戸では婚礼布団の夜具一式で家が一軒建てられたという。布団は財産だったのである。そんな貴重品だからこそ、毎夏ごとに打直しをして綿を仕立て直すという行事が続いてきたのだ。
もし古い家にお住まいなら、かちかちになった硬い布団が残っているかもしれない。毎年打直しをしてきた名残である。木綿には油脂分が含まれているが、年数が経ってそれが失われると、弾力性が無くなり、打直しをするごとに繊維が短くなる。そうなると綿切れを起すので、かつては真綿(絹わた)を引っ張って包みこんだものだ。
そうやって布団は毎年再生され、人々の眠りを支えていったのである。
今日では羽毛布団を仕立て直すことが中心になってきたけれど、それでも打直しは一向に無くなってはいない。それは「もったいない」という日本人の持つ美しい心を体現している一つなのだと思うのだ。
ねむりはかせ 沢田昌宏