良い羽毛は、良い飼育から得られる
羽毛は農作物 いい環境でしっかり育てることが大切
羽毛は農作物ですから、様々な要素で品質が左右されます。基本的には、良い環境でじっくりとていねいに育ててやれば、良い羽毛が採れ、そうでないとそれなりの羽毛になります。
また、農家は羽毛だけというよりは、肉が主流で、副産物的に採れる羽毛と合わせて生計を立てていますから、肉の相場で飼育状況も大きく変わってきます。これも他の農産物と同じですが、大規模農場になればなるほど、大量の取引をしてくれる業者=量販店を相手にします。この場合常にコストダウンを強いられるといっても間違いではないでしょう。
個人農場がベスト
ラテックス工場で「良い原料はどこから?」と聞いたところ「個人農場から」と答えが返ってきました。羽毛も本当に良いものは個人農場で採れます。それは彼らが、自分の育てているものに本当に愛着心を持っているからといえるでしょう。ポーランドは個人農場が多く、愛情を持って育てる農家が多いのです。
羽毛の品質を左右する7つの要素とは
- 鳥の種類
- 飼育日数
- 飼育環境 温度・温度差・農場の清潔さ・飼料の種類等
- 採取方法
- 選別方法
- 洗浄
- ダウン率と嵩高性
1.鳥の種類 グースとダック
いい羽毛はグース ダックは臭いやすい
羽毛はグース(鵞鳥)とダック(家鴨)の2種類があります。
グースの方が身体が大きいために、大きな密度の高いダウンボールが採れます。一般に、良い羽毛はグースと考えて良いでしょう。しかしながら、グースであれば全て良い羽毛とは限りません。お米に等級があるように、グースにも飼育環境や期間などでグレードが分けられます。
羽毛の色がホワイトかシルバーグレーかは、実は品質にほとんど関係ありません。ただ、ホワイトの方が市場では高く売れるために、ホワイトを飼育する農家が多いのです。
ハンガリーではフォアグラを作るためにシルバーグレー種のグースが飼育されています。シルバーグレーはホワイトの羽毛に比べると安くなってしまうので、逆にコストパフォーマンスの高い、良質な羽毛に出会うことがあります。
ダックはグースに比べ身体が小さい分、ダウンボールも小さくなります。中国では8週間ほど育てて、ほぼ成鳥と同じ大きさになった時点で若鳥としてと殺され、その際に機械で羽毛をむしり取るケースが多いので、未成熟な羽毛が多く、一般には低級品が多いのです。(日本の羽毛輸入先は中国と台湾でほぼ80%を占めます)。また、ダックは油脂分が多いために洗浄が不十分だと臭いやすいのです。
例外はアイダーダックと呼ばれる、アイスランド等に生息する鳥で、羽毛の絡みが極めて強く保温性の高いダウンが採れますが、価格も1kgあたり120~150万円、ふとんに仕上げて100~250万円になる、最高級品があります。
2.飼育日数
飼育日数はダウンの良し悪しに大きく影響します。単純な話ですが、飼育日数が長いほど成熟した良いダウンが採れると考えてもらって良いでしょう。逆に飼育日数が少ないと、未成熟な羽毛が多くなります。
鳥の飼育過程(2012年ぐらいまで)
グースの場合は、春先に卵から孵ったヒナは約9週間ぐらいで、成鳥に近いそこそこの大きさまで成長します。この時点で若鳥としてと殺され機械で羽毛をむしり取って得られる羽毛がありますが、この時の羽毛はそれほど良いものではありません。
そうでない場合は、羽毛が生え替わる直前にプラッキング(羽根をむしり取る)が行われます。これが最初にとれる羽毛です。グースはプラッキングを行う事により食欲が増し、体長が大きくなります。16~17週ごろに2回目のプラッキングが行われます。さらに22~23週まで育てると秋になりますが、3回目のプラッキングを行います。この3回目に採取される羽毛が最も品質の良いものが得られるのです。
ところが、このプラッキングが動物虐待にあたるとして、2012年頃よりプラッキングは禁止となってしまいました。このことが羽毛の品質を低下させ、良質のものが少なくなっている一方で高騰している原因となっています。
鳥の飼育過程(2013年以降)
プラッキングは羽毛は生え替わる際に行われるために必要なことですが、このプラッキングが動物虐待にあたるとして、2012年頃よりプラッキングは禁止となってしまいました。このことが羽毛の品質を低下させ、良質のものが少なくなっている一方で高騰している原因となっています。
現在グースの若鳥は別にして、品種改良によって、成鳥は16週間の生育期間で終えるものがほとんどになり、かつてのように23週も飼育されることはなくなりました。良質なダウンは16週後にと殺されたのちに、手で羽毛を取り出すことによって得られます。
マザーグースとは
農家は肉と副産物としての羽毛を販売して生計を立てていますので、多くの鳥は出荷されてしまうわけですが、翌年の卵を産むための鳥があります。これらをマザーグースといい、一般には良質の羽毛が採れます。
ポーランドの場合、コウダヴィエルカ研究所のグランドマザーグースから、マザーグースが得られ、マザーグース専用農場で4年間飼育されます。そこから得られる卵から孵ったグースは一般の農場へ送られます。
ハンガリーではその年の体格の良い鳥から選んでいるようでした(2001年訪問時)
マザーグースはハーベスティングと呼ばれて年に4回ほど、羽毛のハンドプラッキングが行われますが、秋摘みのものが最も良いものが取れます。
ただ、マザーグースは全体の2.5%ほどしかありません(ポーランドの場合)。本当にごく僅かしかいない貴重なもので、当然流通量も限られています。一般に出回っているマザーグースは本当のマザーグースではなく、グースの中でも質の良いものをマザーグースとしているものが非常に多いのです。実際にはそのような量の原料が得られるマザーグースはありえないからです。
3.飼育環境 温度・温度差・農場の清潔さ・飼料
一般的には高緯度地方、つまり寒い土地で飼育された羽毛の方が保温力が高いとされています。特に、温度差が厳しい地域は顕著で、その典型がアイスランドのアイダーダックですが、絡みが強く保温性の高い羽毛が得られます。一般に良質とされている羽毛の産地、ポーランド・ハンガリー・チェコ・ロシア・黒竜江省・カナダなどはいずれも厳冬地です。
一方、鳥を飼育する農場の質も大きな違いになってきます。以前に訪れたカウフマン社提携のハンガリーの農場では、鳥小屋があまり臭くありませんでした。聞くと「鳥を元気に育てるために、小屋は出来るだけ清潔にする。下に敷くわらは毎日のようにとりかえる」ということでした。一方同じハンガリーのもう一つの農場は、あまり管理が行き届いていないような印象です。
当たり前の事ですが、出来るだけ環境の良い条件で育てる事が健康的な鳥を飼育する事なのです。元気な鳥から採った羽毛は元気がよく、長く使ってもへたりにくいということですね。当然のことながら、えさの種類(カラスムギを与える)などによっても出来映えが違うのです。
4.採取方法
従来はと殺後に機械で羽根を採る方法と、手摘み(ハンドピック・ハンドプラッキング)によって、羽毛の良し悪しが分かれていましたが、ハンドプラッキング禁止になってからは、明快な指針がありません。
現状では、ヒナの孵った巣から採取するアイダーダウンがもっとも理想的な採取方法となってしまいました。
手摘み(ハンドピック・ハンドプラッキング)の禁止について
2012年から手摘み(ハンドピック・ハンドプラッキング)ができなくなってしまいました。ヨーロッパのある動物愛護団体がキャンペーンをした結果のようですが、どうも妙なところにこだわる(ライブハンドピック=生きたまま羽毛を採取するのがだめで、屠殺はかまわない)欧米人のセンスには?です。
このキャンペーンで、プラッキングをして採取された羽毛は事実上流通が難しくなってしまいました。その結果羽毛農場に大恐慌をきたし、ハンガリーでの飼育頭数は一昨年の1/10までになった、など大きな影響が出ています。なにより、いままではじっくりと育てて羽毛を採取することで羽毛を高価に買い取ってもらえるメリットがなくなってしまい、結果、市場には16週以上を超えて飼育された高品質の羽毛が極めて少なくなっているという現状になっています。
アニマル・ウェルフェアについての表示が重要となってきました。今日ではプラッキングを一切せずに自然に抜けるままにしておき、最後にと殺した後に手で摘み取るのだそうです。
マザーグースはハーヴェスティングと呼んで、ハンドプラッキングを行っています。
5.選別方法(手選別)
通常の採取方法で得られた羽毛をさらに手選別によって選り分けるという方法があります。これは特にステッキーダウンという絡みの強い羽毛を選別するときに有効です。アイダーダウンに見られるように、絡み合う羽毛は暖まった空気を逃がさないために、非常に保温力が優れています。ところが、この絡みの強いダウンは、通常の選別機(風を送って、軽い羽毛を遠くへ飛ばし、重い羽根は下に沈むという方法でダウンとフェザーを選別する)では、大きな羽根に絡んでしまいます。そこで、このダウンだけを手作業によって選別するのが手選別ダウン。
手作業ゆえにホコリも少なく、非常に優れた羽毛が得られますが、その反面コストも高くなってしまいます。
6.洗浄と除塵
羽毛は農場から集荷業者によって集められ、最終的に羽毛工場へ運び込まれます。この状態では、羽毛にはさまざまな汚れが付いています。この汚れを取り除き、清潔でニオイのないダウンにするのが洗浄工程です。コストダウンのために洗浄工程を少なくする・・・3回洗うところを2回にするなど手抜きをすると、ニオイのもとになります。特にダックダウンには油脂分が多いので、洗浄が不十分だとニオイやすいのです。
河田フェザーの場合
河田フェザーの三重県明和工場には、非常に大きな羽毛洗浄・選別ラインが作られています。特筆すべきは洗浄です。大台ヶ原山系の伏流水を使います。この水は超軟水でクラスターが小さく汚れを良く落とします。さらに特殊な振動水流の洗浄機と温水洗浄を使いうことによって、羽枝の細かなところまでの洗浄を行っています。これにより国内基準500mmを超える1000mmの清浄度をキープしています。
7.ダウン率と嵩高性
ダウン率と嵩高性は通常羽毛の品質を説明するのに最も最初に来るはずの項目です。それがなぜ一番最後なのか・・・それはダウン率や嵩高性はいままでの項目1~6をちゃんとチェックを行っていれば必然的に良いものになるからです。
ダウン率の数字そのものにはあまり意味がない、問題はダウンの品質
ダウン率は羽毛(ダウン)とスモールフェザー(小羽根)の割合です。ダウン90%スモールフェザー10%などと表示されます。ところが昨今の標準的な羽毛ふとんはほとんどがダウン90%以上。最近はダウンが高騰しているので、低級品の中にはダウン50%やダウン70%というのも散見されるようになってきました。
もちろん、羽毛布団と表示できるのはダウン率50%以上ですから、時々「高級羽根布団ダウン10%スモールフェザー90%」とい品を未だに販売する業者がいますが、論外といえます。(経験的に、羽毛布団で「高級」という表示がある場合は、低級である事が多いというのが業界の情けないところでしょうか)
下の画像をご覧下さい。同じダウンでも左の良質なダウンと中央の標準的なダウンでは大きさが違います。なにより、中央部の密度が大きく異なりますので、良いダウンというのは長期間使った場合に、汚れや油分などで嵩が減る事はあっても、壊れてしまう事が少ないのです。
一方、未成熟ダウンは飼育期間が少なかったり、えさを十分にもらえないなど飼育環境が悪い羽毛に多く含まれます。未成熟ですから、羽枝と羽枝の繋がりが弱く、使っているうちにダウンファイバーとよばれるゴミになってしまいます。ゴミは飼育期間が長いほど、手選別など行程が入ると少なくなります。
良いダウンとそうでないダウンの違いはここなのです。品質の悪いダウンはもともとダウンファイバーが多く、さらに使っているうちにゴミがでて、嵩がなくなっていきます。最近はハウスダストアレルギーの方が多いので要注意ですね。
ついでに、羽毛布団用の生地はダニは一切通しませんので、中でダニが住み着いたりということはありません。
440dpクラスのダウン |
380dpクラスのダウン |
未成熟ダウン |
スモールフェザー(羽軸が5cm以下) |
ダウンファイバー |
羽毛の良し悪し決める一つの指標-嵩高性(ダウンパワー)
いままでの帰結として、良い羽毛はダウンボールが大きいために嵩がでます。その嵩高の指標が以前は嵩高性cmで表示され、最近はダウンパワーdpという表示方法に変わりました。
アパレルなどではFPフィリングパワーの数値が使われます。両方とも同じような計測方法なのですが、ダウンパワーとフィリングパワーは比例することがないこともあり、目安にしておいた方が良さそうです。
どちらも、同一の重さの羽毛がどれだけ嵩がでるかを表示したものです。
ダウンパワー400以上を推奨
2回のリフォームに耐える事ができるので30年以上使う事ができます。
眠りのプロショップSawadaでは、通常お使いいただく羽毛布団はダウンパワー400以上を推奨しています。
このクラスの羽毛布団は日本羽毛協会の区分ではロイヤルゴールドラベルに相当しますが、2回のリフォームに耐えうる品質であると考えています。10年で1度リフォームするとすれば、2回で30年間使える事になります。良いものを長く使おうというのが、寝具のグリーン購入を推進する私たちのポリシーでもあります。。
ダウンパワーのドーピング疑惑
過去を振り返ってみると、羽毛の飼育環境はますます厳しくなっています。一方で、ダウンパワー値は上昇の一途です。かつては400dpの羽毛は限られていました。ところが現在では400dpのロイヤルゴールドラベルの羽毛が、かなり安く出ています。
もちろん品種改良もなされていますが、ずっと羽毛布団を作ってきた私の感覚では昔の原料の方が粒が揃っていて良かったのです。かつて20年前にダウン率競争がありましたが、今日ダウンパワー競争が行われています。
仮にいろいろな後加工をしてダウンパワーを一時的に上げたとしても、そのような羽毛は長年使うと馬脚を現し、ゴミが増えたり、嵩が減ったりしやすいのです。
良質な環境で、愛情を持って育てることが、長く使える良いダウンを得る唯一の路であることを私は経験的に学んできました。ダウンパワーに迷わされずに、良い羽毛の提供を行っていきたいと思います。