アイリッシュリネンの真実-ハードマンズ社のリネン

201504

フランス・ノルマンディー Terre de LINの農場(2014.6訪問)

リネンの最高峰 アイリッシュリネンの現実

最高品質のリネン生地はアイリッシュリネンとして、アイルランドで生産されてきました。フラックスという植物(上の画像は北フランス・ノルマンディー地方の畑)から湿式紡績(潤紡)によって細い上質な糸を作り出してきたのです。アイリッシュリネンの本質は、この糸にあるといえるでしょう。

ところが、今日アイリッシュリネンのふるさとアイルランドにはフラックス農場も、紡績工場も残っていません。北アイルランドのベルファストにアイリッシュリネン博物館が残るのみです。本当の意味でのアイリッシュリネンは存在しないのです。

アイリッシュリネン・ギルド

一方、アイルランドの生地メーカーによるアイリッシュリネン・ギルドという組合があります。今ではわずかな会社を残すのみですが、アイルランドで織ったリネン生地をアイリッシュリネンと呼んでいます。WEBサイトによると、原材料や紡績の場所に関係なくアイルランドで織られていることがアイリッシュリネンの条件とされていますから、生地の原産国として、これはアイリッシュリネンと呼んでいいでしょうが、WEBサイトには例外もあるかのように書かれていますので100%とは限らないようです。

アイリッシュリネン・ギルドに加盟する企業の製品はアイリッシュリネンを名乗ることができる、ぐらいに思った方がいいかもしれません。

アイリッシュリネンの本質をどこに見出すか

しかしながら、糸なのか、生地なのかというと「アイリッシュリネン」と呼ぶとき、その本質は糸にあるように私は思います。というのも、綿の生地の場合でも、どこで織られたか、というのはあまり大きな要素ではありません。産地・綿の品種・紡績の技術が織り上がった布の良さに直結します。かつてはエジプト綿を使い、スイスで紡績されたもの(スイスヤーン)が最高と云われました。(今日エジプト綿はかつてのような品質が得られないようになってしまいましたが)世界最高の海島綿をはじめスヴィンゴールド、スーピマ、新疆綿など、産地と品種で区別されます。

リネン麻についても同様に原材料と紡績技術が大きな要素を占めると考えられます。もちろんアイリッシュリネン・ギルドの生地も使用している糸が高品質のものであると思いますが。

フラックス本来の色はシルバーグレー(亜麻色)です。

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かつて存在したアイルランド産のフラックスは、色が淡く独特のシャンパンゴールドに織り上がったといいます。そして、フラックス原料の良さと、紡績の技術で持って最高級リネンと称されたのです。その技術は140番手(下述)という極細番手の糸を作りだすものです。

そしてアイリッシュリネンのなかでも品質で名をはせたのがハードマンズ社でした。

アイリッシュリネンの伝統・ハードマンズ社 しかし…

images (2)ハードマンズHerdmans社は1835年に設立されたアイリッシュリネンの紡績メーカーです。ヨーロッパでも有数のリネンの紡績メーカーでした。しかし、大量生産型の市場に合わすことができなかったのでしょう。2004年にその歴史を閉じました。

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今日、日本においてアイリッシュリネンを名乗るルーツはハードマンズの名前に由来する、といえるでしょう。ハードマンズの名前を使うことにより、「アイリッシュリネン」は高品質のリネン生地として名前だけが残りました。つまり産地名表記というよりは、ブランド名として残ったのです。一方、前述のアイリッシュリネンギルド加盟社のリネン生地も「アイリッシュリネン」として流通しています。

ハードマンズ社が建てた北アイルランドのサイオンミルの工場とその周辺は、今日歴史的な建造物として保存財団によって保全が勧められているようですが、2015年10月に火災に遭ってその後がわかりません。Wikipedia(UK)に載っています。こちら

Youtubeにもサイオンミル紹介のビデオがアップされています。

ハードマンズSA SouthAfrica

ハードマンズ社は南アフリカのIDCという政府系の会社によって子会社となり(WEBサイトより)、アイルランドのサイオンミルで使用していた17台の紡績機は南アフリカに移され、ハードマンズの名前で生産を始めました。これをハードマンズSAとします。

技術の伝承で生まれ変わったハードマンズCHINA

一方、ハードマンズ家のライセンスを受け、その技術を移転してハードマンズは中国で紡績を再開しました。湿式紡績機そのもの自体はどこにでも手に入るものであり、問題は品質の高いフラックス原料を調達するノウハウ、それを使って細番手の良質な糸を作るノウハウになります。そのノウハウを使って紡績されたものをハードマンズCHINAとします。

2つのハードマンズはどう違うのか?

現在、日本には南アフリカでハードマンズが使っていた紡績機を使って紡績したハードマンズと、中国でハードマンズの技術を導入して紡績したハードマンズの2種類が出回っているということになります。

ここで気をつけなければならないのは、糸の製造国と織布の製造国は必ずしも一致しません。原料は両方ともフランス産のフラックスを使っているそうですが、ハードマンズSAは紡績された糸を輸出しており、さまざまな国(おそらく日本も含まれる?)で製織されて生地になり、日本でハードマンズのリネンとして販売されています。ハードマンズCHINAは中国で紡績され、そのまま中国の工場で製織され日本へ輸入されるのがほとんです。

最初は南アフリカの方が良さそうに思えましたが・・・

リネンのプロに云わせると、結局、リネン生地は製織での差はほとんど出ないそうで、原料の品質と紡績技術(微妙なノウハウ)で決まるのだそうです。私の店では中国製の製品は環境面や安全面で十分でないものが多く、お客様も「中国製は・・・」という方が多いので、中国製品は可能な限り使わない方針です。(すべての中国製品がそういうわけではありません。ただ、安いけど素性の知れない怪しい製品が多いのも事実でしょう)

私はハードマンズといえば細番手の上質なリネン、というイメージを持っていましたが、日本で出回っているハードマンズの生地を見ると40番手ぐらいのものが多いのです。それでも、オリジナルの紡績機を使っているのだから南アフリカの方が良いのだろうぐらい思ってました。

南アフリカのハードマンズSAのサイトをみていると麻番手では14~66が出荷可能としていますが、実際出回っている生地を見ても40番手あたりが多いようです。60番手以上は難しいらしい、という情報も聞きました。実際「ハードマンズ 60番手」として検索すると、私どものサイトぐらいしか出てきません(変なコピーサイトがでてきますので要注意)

アイリッシュリネンというなら60以上の細番手の軽い生地

しかし、40番手のリネンなら糸の程度はともかく,正直どこにでもあります。アパレルでシャツを作るなら40番手ぐらいがちょうど良いと思いますが、40番手で布団カバーを作るとちょっと重いので、より軽いハイグレードなリネン生地が欲しいわけです。ちなみに、掛カバーの重量を計ってみると、オリジナルの40番手リトアニアリネンは1150g、ハードマンズ60番手は855g、ハードマンズ80番手は785gです。(80番手が少し重いのは、生地巾の都合で継ぎが入るため)

新しく仕上がってきたアイリッシュリネン100番手だとカバー重量は620gと超軽量です。

アイリッシュリネン100 最高級ハードマンズ生地登場
最高峰ハードマンズ・アイリッシュリネン100 リネンの最高峰と云われるアイリッシュリネン。もちろん現在ではアイルランドでのフラックスの栽培もリネン糸の紡績も行われていませんが、その伝統を持つハードマンズ社の生地が眠りのプロショップSa...

一般的な40綿番手200本ブロード(この記事中の番手は全て麻番手です ちなみに綿の40番手は麻の112番手相当)のカバーで800~850gぐらいなので、40番手の麻では重いわけです。

さて、リネンでは一目置かれる地元滋賀県の林与さんには、30年以上前にハードマンズのサイオンミルで紡績された本物のアイリッシュリネン140番手の糸が残っていたそうです。140番手までとまでは行きませんが、せめて60とか80番手は普通に欲しいものです。

私の思いとしては、40番手ではアイリッシュリネンと称する意味がありません。140番手の糸を作ったものと同じ生産設備を使って、66番手が精一杯という理由はなになのか、それは、使用しているフラックス原料のグレードと紡績技術者のスキルの問題ではないかと思われます。

ハードマンズCHINAは60番手と80番手、そして100番手まで揃います。前に帝国繊維さんの展示会ブースで120番手というのを見かけましたが、こちらはイタリア紡績らしいです。(今では手に入るかどうかということらしいです。ハードマンズCHINAも100番手の糸や生地は残り少なく、今後は作れるかどうか微妙で、おそらく最後ではないかとのことです)

前出の140番手という糸がどれだけ凄いかということでしょう。これがアイリッシュリネンの本来ではないかと思います。

本来のアイリッシュリネンの品質に近いのはハードマンズCHINA

結局、中国で作っているという製造地に対する先入観をのぞけば、最もグレードが高いのがハードマンズCHINAでした。私どもでは、この製品を扱っています。

現在私の店で使用しているハードマンズの生地は100番手、80番手、60番手、40番手の4種類。いずれも中国製の生地で、オリジナルの60番手については染色・仕上げは日本で行っています。実際に使用しても、毛羽立ちが非常に少なく、さすがアイリッシュリネンといえる仕上げと快適な肌ざわりです。一度リトアニア・シウラス社でも55番手のオリジナル生地を作ってもらいましたが、毛羽が多くて使い物になりませんでした。この痛い経験から、ハードマンズの生地は中国で製造されていますが、その名にふさわしい非常に高いレベルの生地であると断言できます。結局、原材料と技術がものを云うということでしょう。

悩ましい製品名の表記

ただ、実際に悩ましいのは製品名の表記です。フラックスの原料産地を称するのか、紡績した産地を称するのか、製織して布にした産地を称するのか、差別化もあってなかなかやっかいです。

というのも、業界ではしばしば「フレンチリネン」という表記が低価格品にも見られます。フランス産なら良いのだろう・・・と思ってしまいますが、ヨーロッパ産のフラックス原料は世界の生産量の80%を占めていて、さらにその内訳はフランス(約80%)・ベルギー(約15%)・オランダ(約5%)となっていて、それ以外にはリトアニア、ウクライナ、中国等で栽培されているものの品質が悪く、実際40番手以上の生地ならフレンチリネンが当たり前という状態です。実際にフランスの農場や加工場に行って調べましたが、フレンチリネンといっても実に10段階の品質レベルに分けられることを確認しています。フレンチリネンという名前で良いものと勘違いしてはならないのです。

フランス・ノルマンディー リネンの畑を訪ねて
2014年6月 フランス・ノルマンディー地方のTERRE DE LINという会社に訪問してきました。ここは600軒のリネン(フラックス)農家から収穫されたフラックスの草をスカッチングという方法でリネンファイバーを取り除く作業、あるい...

リトアニア・シウラス社で織っているオリジナル生地は、原料はフランスです。その理由はリトアニアのリネンは品質のばらつきが多いので、安定しているフランス産原料を使うとのことでした。シウラス社はマスターオブリネンに認定されている企業ですが、そこでも60番手クラスの細番手は紡績できても毛羽が多く、使い物になりませんでした。

アイリッシュリネンを称するかどうかは、さらに微妙です。アイルランドで作られた本物のアイリッシュリネンは無いのですから。ブランド価値として残っているだけです。

眠りのプロショップSawadaの現在の表記ルール

いろいろ迷いましたが、次のように統一することにいたしました。

ハードマンズの生地で80番手と60番手には、それぞれ「ハードマンズ・アイリッシュリネン80」と「ハードマンズ・アイリッシュリネン60」というハードマンズに続けての名前を与えてブランド表記とします。原料:フランス、紡績:中国、製織:中国です。

40番手の生地はハードマンズですが、これには「フレンチリネン」の名称を付けています。ハードマンズの生地とは称しますが、アイリッシュリネンの伝統ハードマンズの名前を付けるなら60番手以上でないといけないと思っています。

リトアニア・シウラス社の生地は「リトアニア・リネン」と呼びます。原料はフランス、紡績と製織がリトアニアです。

国内(主に滋賀県東近江市)で製織した生地については「国産リネン」と呼びます。この場合、原料はフランス、紡績は中国であることがほとんどです。

ブランド価値の与え方を含めて、世の中にはいろいろな呼び方のリネン生地があることはご理解いただけましたでしょうか?

やっかいですね。私たちもどう表記して良いものやら、いまだに悩んでいます。突き詰めれば良いものか、そうでないかという単純な話なのですが・・・。単純に眠りのプロショップSawadaクオリティの60番手、80番手と称するべきなのでしょう。それでも10年以上リネンを探求してなんとかここまでたどり着きました。

60番手と80番手、100番手のリネンカバーやシーツは非常に使い心地が良い素材です。今年の冬は80番手リネンカバーで過ごすことができました。夏用に思われますが、細番手の素材は熱が生地に奪われることなく、布団へすばやくたどり着くのです。

リネンの現在展開している製品についてはこちらからどうぞ。楽天からも、お買い求めいただけます。店頭ではハンパ生地を使った限定品などもありますので、のぞいて見てください。