まだ木綿の栽培が一般的でなかった昔、生地に使われる素材は絹か麻であった。明治時代に入って絹は日本の重要な輸出商品として殖産興業の掛け声で多く製造されるようになる。先日世界文化遺産の認定を受けた富岡製糸場はその代表ともいえるだろう。
私たちの住む湖北も、ほんの数十年前までは多くの桑畑があり養蚕が盛んに行われてきた。木之本の琴の糸、長浜の浜ちりめん、米原の近江真綿と、北近江の地では日本でも有数の上質な絹製品を生み出してきた。かつての北国街道はシルクロードであったともいえるのである。今日桑畑は多くが失われ、これらの伝統的な地場産業もかつてほどの隆盛はみられない。しかし、今なお生み出される製品は全国屈指の品物ばかりである。
ふとんわた、というと通常は木綿わたのことを指すのだが、繭から作られるものは「真綿」と呼ばれた。真の綿ということである。近江真綿は繭から正方形状に整形された角真綿の四隅を二人で引っ張って広げ、それを数百回重ねてふとんわたに仕上げる「手引き」という方法で生み出される。肌沿いが良く体になじんで暖かい。
この側生地に浜ちりめんを使ってみたらどうだろうか、ということから生み出されたのが私どもオリジナルの「濱まゆ真綿ふとん」である。通常の着物に使われる浜ちりめんでは重く、布団の生地には適さなかったので、専用に超軽量の浜ちりめんを織っていただいた。こうやって仕上がった。真綿も生まゆや黄金真綿など上質なものだけを使っている。
絹は繊細でデリケート、それゆえにその使い心地は極上ともいえるだろう。長年にわたって培われてきた浜ちりめんと近江真綿という伝統が組み合わせられて、新しい地産池消の眠りが誕生したのである。
ねむりはかせ 沢田昌宏