羽毛の質を見抜くためには経験が必要
羽毛の世界はキツネとタヌキの化かし合い
これは、信頼の置ける羽毛会社のトップが語られた言葉です。食品の世界では昨年来さまざまな偽装事件が発覚いたしましたが、残念なことに羽毛の世界はそれ以上の状態です。
「アイダーダウンやポーランドグースは輸入量の5~10倍の量が出回っている」
「ある原料屋で『この羽毛はどこの産地のタグを付けるの』という会話を聞いた」
このような話がまことしやかに語られていますが、全く否定する状況でないところが問題です。
既製品だけを扱っていた昔は、メーカーの云うがままに「これは××産の良い羽毛を使っていますよ」とお客様に説明してきました。ところが、自家製手作りで羽毛ふとんを作り始めると、表示そのままを信じていてはいけないことに気がついたのです。
「同じハンガリー産、それも嵩高もほぼ同じ羽毛なのに、なぜこれだけパワーが違うのだろう?」
どうやら、産地やダウン率だけで判断してはいけない、ということがわかってきました。
羽毛は農作物です 良いものと悪いものがあります
まず、羽毛はそれを採取するために飼育されている、ということです。ですから、飼育条件によって質がずいぶんと変わってきます。鳥を飼育している農家は肉と羽毛を売って生計を立てていますが、ここも2極化が進んでいます。大規模飼育業者はどうしても「安く」という市場の要請を無視できません。そのために、いかに低コストで飼育するかということに特化してきます。
良いものを探そうとすると、個人農場が中心になりますが、農場によって飼育の管理のレベルがまちまちで、しかも飼育数が景気の動向に大きく左右されるために、安定した供給が難しいのが現状です。良質な羽毛を産出する個人農場とのコネクションをいかに良好に保つか、というのが良質の羽毛業者の見せどころとなります。カウフマン社はそういった良い供給先を多く持っている羽毛業者の代表といえるでしょう。
前にハンガリーで訪れたカウフマン社提携の農場は本当に良い農場でした。広く、大きな湖を持ち、鳥小屋は常に清潔な状態に保たれているために、鳥自体が健康です。健康な鳥から得られる羽毛は、やはり健康で、そうでない羽毛と比べると長く使うとはっきりと差が出てくるのです。健康的な環境で、じっくりと育てた鳥から採れる羽毛は、やはり良い羽毛なのです。
その前に訪れた別の農場では、飼育環境が不衛生で、きれいとはいえない環境でした。湖もありません。水鳥は湖があって、その良さがでてくるのではないでしょうか?このように、同じハンガリーでも飼育条件によって羽毛の品質は大きく変わっていくのです。
どこの産地が良いのか?
新潟は米処。おいしいお米がとれます。しかし、新潟の米が全て良いわけではありません。
ポーランドやハンガリーも同様です。単純に産地で判断してしまうのは大変に危険です。ポーランドやハンガリーでも、本当に素晴らしい羽毛があるかと思えば、一方で大量生産向けの品質の良くない羽毛もあるのです。
ポーランドは個人農場が多く、本当に良質の羽毛を探しに行くとポーランド産であることが多いのです。
逆に中国は低価格で低品質と思われていますが、広い国です。探せば、吉林省のように良質な羽毛を得ることもできます。ただ、開放政策により利益を重視するためか、良質の羽毛は手に入れにくくなっています。
結論をいいますと、偽物や混入が非常に多いので、産地を当てにすると失敗することが多いですね。産地偽装も当たり前のようになされている状況です。
羽毛の品質はどこで見る
羽毛の品質は主に「鳥の種類」「ダウン率」「嵩高性」「油脂分率」「清浄度」「酸素係数」などで評価されます
より詳しい説明は 羽毛の良し悪しはどのようにきまるのか をご覧下さい
1.鳥の種類
羽毛はグース(鵞鳥)とダック(家鴨)の2種類があります。グースの方が身体が大きいために、大きな密度の高いダウンボールが採れるので、良い羽毛はグースと考えて良いでしょう。
例外はアイダーダックと呼ばれる、アイスランド等に生息する鳥で、羽毛の絡みが極めて強く保温性の高いダウンが採れますが、価格もふとんのシングルで100万円を超えるものがほとんどという、最高級品があります。
羽毛は主にダウン(羽毛)とスモールフェザー(小羽根)、ラージフェザー(大羽根6.5cm以上)、ダウンファイバーに分かれます。大羽根はふとんでは使われませんので、通常はダウン率というとダウンとスモールフェザーの重量比率を指しますが、厳密には、ダウンファイバーやフェザーファイバー、陸鳥、夾雑物なども測定します。現在では、一般の寝具はダウン率85%以上のものがほとんどになっています。
2.ダウン率、かさ高性
なお、一般にダウン率はネット(正味)率で表示しますが、メーカーによっては-5%の誤差を含めた甘い表示をするところも少なくありません。真面目な表示をすれば、通常の選別でのダウン表示は93%ぐらいが上限です(一部例外有り)。95%表示をしようと思うと、手選別による作業が必要になってきます。
かさ高性の表記は2011年からは、従来のcm表示に変えてダウンパワーという表記をするようになり、各国ごとに微妙に異なっていた試験方法の統一化が図られました。かさ高性はダウン率よりは羽毛の品質を端的に表すことのできる数値です。ある一定条件での羽毛のかさ高を表します。当然かさ高の高い方が良質な羽毛ということになります。日本羽毛協会では使用している羽毛のかさ高性によって、表示を決めていますので、一定の目安になります。
一方フィリングパワー(平方インチ/30g)という表記方法もあります。こちらはダウンジャケットなどアパレル系で使われることが多いのですが、ダウンパワーとフィリングパワーは必ずしも一致しません。
もっともパワーアップ加工などを施すと、本来の数値より良い結果が出るので、数値だけでの優劣は付けがたいところがありますし、ダックダウンはダウンパワーが多めに出る傾向にありますので、同じダウンパワーでもグースとダックでは実際の風合いは異なります。
私の経験からは、ヨーロッパのメーカーは表示が甘いようです。
日本羽毛製品協同組合は羽毛の嵩高別に下記のラベルを添付しています
ダウンパワーの測定は下記の装置を使って行います |
長く使うのために、かさ高400DP(16.5cm)以上をおすすめ
というと16cmではダメなのか、ということではありません。日本羽毛協会の分類でロイヤルゴールドラベル、もしくはプレミアムゴールドラベル以上のダウンであれば、2回のリフォームに十分耐えると考えています。すなわち、平均12年で1回のリフォームを行うとすれば、35年以上使えることになります。環境負荷のことを考えれば、できるだけ長く使って廃棄物を少なくした方がいいわけです。眠りのプロショップSawadaは「長く使う」「再利用する」ことを通じて寝具のグリーン購入に10年来取り組んでいます。
羽毛ラインアップに400DPのダックダウンがありますが、グースダウンに比べるとファイバーなどが多いので、2回目のリフォームが出来るかどうかは微妙です。
手摘み(ハンドピック・ハンドプラッキング)ついて
アニマルウェルフェア(動物愛護)の流れから手摘み(ハンドピック)という言葉が使えなくなってしまいました。どうも妙なところにこだわる(ライブハンドピック=生きたまま羽毛を採取するのがだめで、屠殺はかまわない)欧米人のセンスには?です。
ただ、良質な羽毛を採取するためには、ハンドピック(ハンドプラッキング)が欠かせません。グースは孵化すると、約2ヶ月である程度の大きさに成長します。約10~12週間目、最初の羽毛が生え替わるタイミングに合わせて最初のプラッキングが行なわれます。これにより、グースの食欲が増し、体はさらに大きく成長します。約16~18週間目に2回目のセカンドプラッキングが行なわれ、良質のダウンが採取できるようになるのです。さらに22~25週目で3回目のサードプラッキングが行なわれますが、これがもっとも良質なダウンが採れるのです。
これが理想的な羽毛の採取ですが、多くの羽毛は、若鳥の副産物として採取されます。概ね8週間で体長はほぼ一人前になるために、この時点で屠殺され、機械によってプラッキングされます(マシンピック・マシンプラッキング)。
ただ、8週目ぐらいまでは、栄養はほとんどが体を大きくすることに使われ、羽毛に栄養がいくのは10週目以降です。ですから、ハンドピックといっても1回目のものであったり、あるいは屠殺後に手で取ったものについては、いい羽毛とはいえません。このあたりの「ハンドピック」という表示が曖昧だったため、嵩高14cm程度でも出回っていることが少なくありませんでした。その意味からはハンドピック表示ができなくなったのは良いことかもしれません。
ただ、現在でもポーランドではマザーグースについては、伝統的なハーヴェスティング(生え替わる際のハンドプラッキング)は行われているようです。
手選別について
これも使い方が曖昧ですが、基本的にはハンドピックしたものを、さらに手作業によって良いダウンだけを選別することをいいます。一般に鳥から採取した原毛は、洗浄乾燥後、選別機によってダウンとフェザーに分けられます。そのしくみは、羽毛に風を送り込んで、より高いところまでいったものがダウンだという考えです。しかしながら、この方法ではダウンボールが大きく絡みの良い本当の良いダウンは、フェザーに絡みついて、最初の選別工程で取り除かれてしまいます。そこで、この段階のものから手選別することにより、絡みの強い良質のダウンを得ることができるのです。
3.油脂分率・清浄度・酸素係数
油脂分率は羽毛に残留する油脂分を、清浄度は羽毛のすすぎが十分に行われているかどうかの洗浄液の透明度を、酸素係数は羽毛の残留有機物の量をしめす数値です。
羽毛の洗浄が不十分だとこれらの数値に問題がでてきます。ニオイなどが気になるのは、ほとんどの場合洗浄が不十分なことが多いのです。
河田フェザーのダウン
当初はさまざまな羽毛メーカーから仕入を行ってきました。そのうちにメーカーによって品質に差があることがわかってきたのです。
現在では 日本の河田フェザー・ヨーロッパのAnimex、Peter Kohl社から原料を仕入れています。
河田フェザーは日本の羽毛の歴史の最初からかかわってきたメーカーです。上記のような羽毛の品質基準の設定にも永年努力してきました。何年もおつきあいをさせていただいておりますが、品質が安定しているということと、良心的であるということから安心できる数少ない羽毛原料メーカーです。
徹底した洗浄が特徴
河田フェザーの三重県明和工場には、非常に大きな羽毛洗浄・選別ラインが作られています。特筆すべきは洗浄です。きれいな水で洗うことは当たり前ですが、ここでは鈴鹿山系の超軟水を使い、しかも温水洗浄を行っています。さらに特殊な振動水流の洗浄機を使うことによって、羽枝の細かなところまでの洗浄を行っています。これにより国内基準500mmを超える1000mmの清浄度をキープしています。
エコテックス100規格認証
エコテックス規格100認証取得(人体に有害な物質を規制する安全安心の世界基準)を行っています。まず、基本に忠実に加工し、徹底的によごれやほこりを取り去り、軽くて暖かい羽毛に加工することと、ACTI GUARDによるSEK加工など、安心で安全な抗菌防臭加工が施されています。
豊富なダウンセレクション
河田フェザーには世界各国の産地から良質な羽毛が集められていますが、産地があやふやなものが増えた現在ではトレーサビリティの取れるしっかりしたダウンのみに絞っています。
羽毛の種類 | ダウン率 | かさ高性 | 特徴 |
---|---|---|---|
ポーランド 手選別 ステッキーホワイトグース PST95N |
95% | 430dp | ポーランド産で絡みが強く保温力の高いステッキータイプのホワイトグース。原産地証明が取れないが、ホコリが少なく極めて上質な羽毛。計測値は438dpでほぼ440に近い430 ナノクリスタル加工を施している眠りのプロショップSawadaオリジナルダウン。 |
ポーランドーマザー ホワイトグース PMG95 |
95% | 440dp | ポーランドのマザーグース専用農場で飼育されている、トップグレードのマザーグース |
ハンガリー ホワイトグース HWG95 |
95% | 440dp | ハンガリーで飼育されている、白色度の高いホワイトグースダウン。マザーグースではないが、440dpのハイパワーダウン |
ポーランド ホワイトグース PWG93S |
93% | 430dp | ポーランド ホワイトコウダ種のホワイトグースダウン。430dpと大手のマザーグース同等のパワーがあり、ホコリや未成熟ダウンが少ないのが特徴。おすすめ |
ポーランド ホワイトグース PWG93 |
93% | 410dp | ポーランド ホワイトコウダ種のホワイトグースダウン。ダウンボールがしっかりしていてベーシックタイプでおすすめ。 |
台湾 ローマン種 ホワイトグース RWG93 |
93% | 400dp | 台湾中部の山岳地帯の農場で飼育されたグースダウン。コウダ種に比べると身体が小さいが、良質な羽毛が採れる。 現在庫のみ |
フランスピレネー ミュラー種ホワイトダック FPD93S FPD90A |
93%
90% |
400dp | ホワイトダック=嵩高がでない、を覆した400dpという嵩高のダック。厳密にはマスコビーダックと通常のダックとのハイブリッド種であるミュラーという種類。
ダウンボールは大きいが、同じ嵩高のグースに比べるとファイバーなどが多い |
羽毛の偽装は何故起こるのか?
理由1:ごまかしても発覚しにくい。慢性的に行われているので麻痺
ダックとグースは全く違う鳥なので、検査をすれば判明するのですが、それでもダック100%の羽毛にグース表示をする、というようなことが横行しています。ダックとグースでは、単価がかなり違うのでグースにダックを混入するということもよく行われています。
復元力として最も優れているのは羽毛ふとんでしょう。羽毛ふとん専用のバッグに小さく折りたたんで入れることが出来ますので、春~夏で使用しない場合は、コンパクトに収納が可能です。
理由2:高騰する相場と販売先の価格値下げ圧力から
産地偽装をした会社の社長が「安いものばかり求める消費者も悪い」と開き直っていましたが、一面の真理を突いています。羽毛の価格も相場で決まります。最近は落ち着いてきましたが、数年前はかなり高騰していました。ところが、原料の高騰を価格に転嫁できるかというと、特に大手量販店相手では非常に難しいのが現状です。それどころか、常に値下げ圧力があります。
結局どこかでつじつま合わせをしないと、供給する側も赤字販売に陥ります。特に中国系で問題になりましたが、品質保証のモラルがないところが多いために偽装が日常的に行われます。もっとも向うにすれば「この品質(表示)のものを、この価格で出せといわれたから」ということなんでしょうけど
理由3:天然素材を工場製品みたいに考えるから
羽毛は天然の農作物です。常に同じものが製造される工場とは違います。 産地によっても、年ごとにマーケットの環境、特に肉の価格などにも影響されますし、天候や飼育にどれだけ手間をかけられるかというコストの問題も要因となります。原料メーカーはそれらの要因をできるだけ吸収するようにはしているものの、産地ごとの出来不出来は必ずあります。
中国でコストダウンのために生後1ヶ月で羽毛を採取するということが行われているそうですが、生後1ヶ月では、とても羽毛と呼べるレベルにないことは明白です。
20年間に及ぶ取り組みの中で得た結論
「自分自身の目で確かな羽毛を選び抜く=選別できる目を持つ」
「信頼の置ける原料メーカーと長くおつきあいする」
この2点です。
眠りのプロショップSawadaで販売する羽毛ふとんは店主が直に選んだ羽毛のみを扱っています。