快適な寝床内の環境は温度33℃湿度50%
日本睡眠環境学会において報告された数字です。厳密には敷寝具の背中部分となっています。ヒトの発汗は背中部分が最も多いため、特にその部分の湿度コントロールが重要であるということになります。
室内の快適ゾーンは17℃~28℃
一方で住宅の快適ゾーンというものがあります。図ではオレンジの線で囲まれた部分で、室温17℃から28℃、湿度は40%~70%の間です。中央値は温度22.5℃湿度55%です。
なぜ寝具の場合は33℃になるのか?
ところが寝具の場合は身体に直接当ります。ヒトの体温は36~37℃(深部体温)、体表面温度は32~33℃ですから、寝具自体の温度は最終的に体表面温度に平衡します。つまり、冷たい寝具であっても、明け方の起床前においては、寝具の温度は33℃になっているということです。だから、冬は室温が10℃以下なると考えると、布団からでにくくなってしまうわけです。
さて、この時に湿度が50%が快適とされていますから、湿度については室内も寝床内も同じと考えていいでしょう。そして、気密度の高い現代の住宅では、湿度のコントロールが重要になるのです。
速暖性:いかに素早く温度33℃に達するかが、寝具の保温力のポイント
寝具の保温力を考えるときに大事なのは、33℃の温度をキープできるかということに加えて、素早く33℃に達する=速暖性が重要ということになります。
速暖性その1:暖まりが早い素材を使う
カシミヤや、絡みの強いアイダーダウン・ステッキーダウンは暖まった空気を閉じ込めてくれるので、直ぐに暖まりやすい素材です。端的にいうとカシミヤ毛布とアイダーダウンの羽毛布団を使うと最強ということです。
速暖性その2:乾燥が早い素材を使う
湿気がこもりやすい素材、放湿性の悪い素材は、含まれる水分を放湿するために熱量をうばわれ、暖まるのが遅くなります。木綿に比べると、ウールや羽毛など動物性繊維の方が放湿性は格段に優れています。木綿は側生地で多く使われますので、できるだけ細番手の軽い生地の方が、生地に含まれる水分量が少ないので暖まるのが早くなります。
吸湿性がないので、湿度コントロールには難点がありますが、ポリエステル等の合成繊維は吸湿性が無いゆえに、速暖性もあります。
速暖性その3:予め暖めておく
ふとん乾燥機や電気毛布等を使い、寝る前に寝具を暖めておけば、湿気を取ることにもなり、暖めるのに体温を奪われることが少なくなります。特に、冷え性の方にはおすすめです。
速暖性その4:暖まった空気を逃がさない
せっかく身体の周りの空気を暖めても、すぐに逃げて行くようでは困ります。身体にフィットして、暖まった空気を逃がさないようにすることも重要です。
湿度50%をどのようにして実現するか
相対湿度と絶対湿度のしくみを理解する
湿度には相対湿度と絶対湿度があります。一般に天気予報などで使われる湿度は相対湿度で%で表示されます。
一方、絶対湿度は空気中の水蒸気量をg/㎥で表します。飽和水蒸気量というのはある温度における空気が含むことができる最大の水蒸気量で、この状態が湿度100%といえます。
湿度がこの飽和水蒸気量を超えると結露をすることになります。この飽和水蒸気量は温度が高いほど大きくなります。つまり、同じ湿度でも温度33℃と温度10℃では飽和水蒸気量が4倍も違うのです。
ヒトは睡眠の初期での発汗が大きい 吸湿発散性が重要
ヒトは最初の睡眠周期で「深睡眠」「成長ホルモン分泌」「発汗」の一番大きな山がきます。つまり、これらの発汗を吸湿した上で、湿度を50%にすることが必要です。一晩に発汗する量は季節や体質によって異なりますが、200~300ccといわれています。となれば、この汗を吸湿発散するメカニズムが、特に敷寝具に求められます。
下図をみてください。ヒトの体表面温度は32~33℃、つまり寝ているときに布団の温度は33℃に近くなります。この時に快適といわれる湿度50%ですが、その状態での重量絶対湿度は0.016となります。起きて布団の温度がさがってくると、約21℃で湿度が100%つまり飽和水蒸気量一杯になります。さらに10℃まで下がると0.008になりますから、その差が結露、つまり液化して、布団が湿気るのです。この場合カビのリスクが上がります。
湿気が多い布団は入眠しにくい
さて、そのままの状態で夜になったとします。布団は湿度100%近く+布団の中に湿気があります。この状態で布団に入ると、ヒトの体温で徐々に温まってきますが、湿気が多いために、湿気を水蒸気化することに身体の熱量を奪われます。なかなか暖まりません。
眠りのしくみから、入眠するには最初に布団や身体は暖かい方が良いこと、最初の眠りで多く発汗することが分かっています。このことから湿気が多いと布団が暖まりにくく、発汗する汗を吸湿することが難しくなり、結果寝床内の湿度が上がって不快指数が高くなります。
毎日、寝具の湿気を取り除くことが重要
逆に暖まる過程をみてみましょう。前日の睡眠で増えた湿気を取り除くことが重要です。 33℃50%のベストの状態の寝具が、夜には湿気そのままで10℃になったとします。このまま布団を使うと、布団の中の湿気(水分になっている分)を含めて、身体の熱で暖めながら湿気を逃がします。こうなると、布団の湿度は100%に近いまま、新たな発汗の分も合わせて暖めるのですが、時間がかかりますし、湿気が多いので快適ではありません。
ところが、寝具を乾燥させて湿気を半分以下にしたとします。そうするとオレンジの線で示されるように当初は湿度80~90%あって、なおかつ発汗分を吸収しながらも、快適ゾーンを通りながら33℃50%へと向かいます。湿気がこもったままの布団とは快適さが全く違うのです。
もちろん、仮定のモデルとしてですが、毎日布団の湿気を取り除くことが、快適な睡眠のために必要なことがわかるでしょう。
ふとん乾燥機や電気敷き毛布をうまく使う
有効なのは布団乾燥機です。最近は簡単にノズルだけで乾燥できるものが増えています。また、敷寝具の下に電気敷き毛布を使い、寝る前に温めて湿気を取り除く方法もあります。この場合、入眠と共に電気毛布は切るか、低温にします。
羽毛布団には軽くて通気性の良い綿生地が最適
羽毛掛ふとんの場合は、中身の問題もありますが、どちらかというと生地の通気度と、軽さが、速暖性や吸湿発散性に大きく影響してきます。
一般的に羽毛布団に使う生地は、ダウンプルーフという吹き出し防止加工がなされているので、他の寝具に比べると通気性が良くありません。従来の綿100%の生地で通気度は1.3~1.7cc/s程度がほとんどでした。最近の市販品には、ほとんどポリエステルやポリエステル混になっていて、通気度が0.7~0.9cc/sのものが多く、蒸れやすい構造になっています。
通気度が2.5ccを超え、生地も細番手で軽量なものになると、通気性もアップして羽毛の良さを活かせるようになります。