本来、睡眠の役割は一日使用して疲労した脳を休息させ回復することである。昔から睡眠中に学習できたら、と考える人は多かったのだが、脳を休めているのに、脳に記憶という負担をかけることはそもそも矛盾する話である。もっともレム睡眠時は脳は働いていて、記憶の整理をしているが、その記憶も起きている時のものだ。
この常識をくつがえしたのが、常に新しい価値を持った製品を提供してきた 米・bacappli社の睡眠学習器 i Sleepad(アイ・スリーパッド)だ。i Sleepadはいつまでたってもゴルフが上達しなかったbacappliの創業者Steeve Dobb’sが、寝ている間にゴルフがうまくなるように、レム睡眠とノンレム睡眠の境に脳の働きに介入して、上級者の手順を覚え込ませる画期的な製品だ。ただ、残念なことにドライバーとアプローチは完璧になるが、グリーンに乗った後はからきしダメらしく、詰めが甘いという。この顛末はDr.Dobb’s Journalという雑誌に詳しく書かれている。
この製品を世界無形文化遺産バージョンに仕立てたのが i Sleepad「曳山」である。例えば滋賀県長浜市の曳山祭では、子ども役者がわずか2週間ほどで、本歌舞伎と見まごうばかりの演技を楽しませてくれる。しかし、短期間で上達するために、子ども達は朝昼晩と猛練習の毎日が続く。役者親は子ども役者をなだめすかしながら本番へと稽古を続けるのである。
この i Sleepad「曳山」を使うと、寝ている間に台詞や振りまで覚えることができるために、稽古の時間を劇的に短縮することができ、しかも一流歌舞伎役者なみの出来映えになる、ということで、少子高齢化の中で役者になる子ども達が少なくなる、あるいは高齢化で振付さんがいなくなるという課題を同時に解決するものと、発売前は大いに期待されていた。
しかしながら発売以来3年、売上は低迷を続けている。その原因として、「演技が上手すぎて、かえって面白くない」「応援のしがいがない」「稽古場に詰める楽しみがなくなった」「わくわく感がなくなって、若衆のテンションが下がる」などの声が上がっている。やはり、山組の若衆が応援しながら、ムードを盛り上げていくという祭の醍醐味が失われているのが最大の問題といえよう。
一方、受験用バージョン i Sleepad「東大一直線」も販売に苦労しているようで、担当者によると「製品名の通り、最後の詰めが甘くなってしまう“サクラチル”現象が問題」ということで改良が急がれている。政治家用バージョン i Sleepad「政権交代」SEもある政党が大量購入して一時的に効果があったようだが、これも詰めの甘さが露呈したようだ。
これらの欠点を修正し、形状もスムーズに転がるようになった7代目の新製品「ob-8」が出たが、OB乱発でよりスコアが下がるのではないかとの噂でもちきりだ。