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羽毛のダウンパワー・フィリングパワーの数字は本当に羽毛の実態を正しく表しているのか?

目次

羽毛の原料会社によって、ダウンパワーと実際の嵩高にずれがあるのはなぜ?

ダウンパワー(dp)は羽毛の嵩高を示す数値として、従来の嵩高性(cm)に代わって、主に羽毛布団などの原料指標として使われています。日本羽毛製品協同組合では300dp以上をニューゴールドラベル、350dp以上をエクセルゴールドラベル、400dp以上をロイヤルゴールドラベル、440dp以上をプレミアムゴールドラベルとして、グレード分けしています。

羽毛のダウンパワーやフィルパワーの測定方法は、JISとIDFBによって測定方法が共通化されています。

  1. ダウンパワー(dp)
    羽毛試験方法 JIS L 1903 のかさ高性試験では、a)体積測定による方法、b)高さ測定による方法の二つの方法があります。
    このうち、a)で測定した結果は羽毛1g当たりの体積(cm3/g)を表し、これを「ダウンパワー」と称しています。「ダウンパワー」は、寝装品によく使われています。 一方、b)で測定した結果は、羽毛のかさ高を高さ(mm)で表しダウンパワーとは区別されています。
  2. フィルパワー(FP)
    ダウンジャケットなどで「フィルパワー」「FP」という表示を見ます。これは国際羽毛協会の試験方法であるIDFB Part10(後述)にて測定したかさ高で、体積測定法になります。「フィルパワー」は羽毛30g当たりの体積(inch3 /30g)で表します。「FP 600」とは30gの羽毛が600 inch3に膨らんでいることを表し、数値が大きい程高品質な羽毛となります。
    参考:1inch(インチ)=2.54cm
    IDFB Part10:国際羽毛協会(IDFB)の定めるフィルパワー測定方法で、国際的に最も広く使用されているかさ高試験方法です。
    JISダウンパワーと同じく羽毛の重量当たりの体積を測定する試験ですが、JISダウンパワーとは試験手順や試験結果の単位が異なります。
Q-TEC https://www.qtec.or.jp/search/test/umou/umou02/ より引用

測定方法が共通化されているのであれば、どこの検査機関に出しても同じような数値が出るはずですが、長年、羽毛布団を手作りしていますと、表示されている嵩高性と、実際のパワーが必ずしも一致しないことがあることに気がついていました。つまり、表示通りのパワーが出ない羽毛があるのです。

ダウンパワーの10ぐらいの違いは誤差である

羽毛布団を販売する私たちとしては、この羽毛は400dpありますから・・・という説明をしたくなります。400dpと410dpの差はそれほど印象が変わりませんが、390dpと400dpでは印象が大きく変わります。390dpならエクセルゴールド、400dpならロイヤルゴールドとラベルの色も変わるので、ずいぶん差が出るように感じてしまいます。

河田フェザーの河田社長はIDFB(国際羽毛協会)の副会長をなさっており、非常に真摯に羽毛の品質について取り組んでいらっしゃる方です。

その河田フェザーの羽毛検査室は、「一般社団法人UMOUサイエンスラボ」として別法人による運営がなされています。公平性を確保するためと聞いていますが、長年のお付き合いで、ここの検査結果は非常に正確で安心できることが判っています。

その担当の方が、「ダウンパワーの10ぐらいの差は検査誤差ですね」とおっしゃいます。

確かに、河田フェザーさんから仕入れているPST95N(ポーランド手選別ステッキーホワイトグース ダウン95%)は検査結果が438dpだったので、1桁を切り捨てるために430dp表示(ロイヤルゴールドラベル相当)となります。ところがこの羽毛は、同じ河田フェザーさんの原料HWG95(ハンガリーホワイトグース ダウン95%)440dp(プレミアムゴールドラベル)よりも、ダウンボールがしっかりしています。

一方、他社の430dpといわれる羽毛と比べると、品質の違いは歴然としています。ダウンパワーの数字が同じでも、実際の羽毛の質は違うことが多いのです。数字だけを信用するのは危険です。

さらに衝撃!「アメリカの検査機関だとフィルパワーは高く出る」らしい

フィルパワー(FP)も羽毛の嵩高性を現す指標で、IDFB(国際羽毛協会)によって検査方法が規定されています。ダウンジャケットなどアパレル系で使われることが多い表示方法です。ヨーロッパでも寝具はFP表示の方が多くなります。

「同じ検査機関に出してもアメリカの検査機関の方が良いFPが出ることが多い、余りに良すぎる結果が出るので、疑ってしまう。」とのこと。絶句です。

ダウンジャケットでFP850とかFP900とか、ずいぶんと気前が良いなと思っていたら、このようなことが起こっているのかもしれません。

FPの試験の場合は、羽毛の攪拌を5回することになっているらしいのですが、これを圧縮空気で行なうと、やはり良い数字がでるとのこと。最近は自動計測器が出てきたが、やはりこれの方が良い数字が出るのだそうです。

ダウンパワーとフィルパワーは正比例するはずなのに・・・起こる逆転現象

ダウンパワーdpとフィルパワーFPの測定方法は同じような方法を取っているので、本来であればダウンパワーが高ければ、フィルパワーも高いというように正比例するはずですが、原料メーカーの表示をみると必ずしもそうなっていないケースが多々あります。

ダウンパワーだとA>BなのにフィルパワーだとA<Bという逆転現象が起こることがあるのです。上述のアメリカの例は極端にしても、検査機関が違う(日本の場合Q-TECカケンIDFL中国等、河田は前述のUMOUサイエンスラボ)と、その都度送るサンプルも微妙に変わってくるので、試験のプロセスは共通化されているものの、結果に差が出てくるのは致し方ないのでしょう。

同じ検査機関に依頼したとしても、「人が行なう以上、個人差がでることは避けられない」微妙な誤差(10dpぐらい)は出るということですから、dpとFPの逆転現象も起こりうる可能性はありますが、中には極端な例があって、戸惑ってしまいます。

「460dpや470dpの羽毛をオファーされたが、実際にその通りの数字が出ることはまずない」

日本でもトップレベルの品質を誇る河田フェザーさんには、良いといわれる原料の売り込みがなされるらしいのですが、「460dp、470dp出ますよ、といろいろオファーをもらいますが、実際に洗って計測してみると、その数字が出ることはほとんどありません」とのこと。

実際に河田フェザーの原料リストのアイダーダウンを除くトップはポーランドマザーホワイトグース ダウン95%ですが、ダウンパワーは440dpです。トップの原料だけあって、それなりに高い価格です。しばしばネットなどで、ポーランドマザーグース 440dpの羽毛布団が安くでていますが、その価格では羽毛原料すら買えません。

上述のハンガリーホワイトグース ダウン95% 440dpも数値は同じですが、パワーの出方は同じ440dpでもポーランドマザーグースの方が羽毛の腰がしっかりしています。値段は正直ですね。良いものを買おうとすると、それなりの価格になるのです。

かつて、河田フェザーさんには、ハンガリーマザーシルバーグース ダウン95% 460dpの羽毛がありましたが、確かにこれは数字通りしっかりした嵩高がありました。

現在私どもでもっともパワーがでるのは480dpのPPST98ポーランドプレミアムステッキーホワイトグース ダウン98%です。これは手選別で本当に良いダウンボールだけを選んでいるので、470か480かの誤差は別として、確かに嵩が出ます。440dpだと800g入りですが、480dpだと700g入りで同じぐらいの嵩になるのです。これのFPは980です。

ところが、FP1000という、さらにパワーのあるPPMG95ポーランドプレミアムマザーホワイトグース ダウン95%があります。これもダウンパワーは470で同じぐらいですが、羽毛原料の価格はPPST98と比べてかなり差があります。FP1000で470dpあるので、PPST98同様に最初700gで作ってみたら、思ったほど嵩がでません。結局750gが同じぐらいという結果になりました。このように、トップグレードの羽毛でも数値と実際の嵩には乖離があるのです。ある意味値段相応と思われます。

結局、狐と狸の化かし合いは続く・・・

サンプルの取り方、パワーアップの直後かどうか、調べる検査機関などで、ダウンパワーの数値が変わってしまうことが判りました。さらに、検査に持ち込まれる羽毛にも問題があります。ファイバーを接着した疑似ダウン(グルーダウン)の問題があったり、ダウンになんらかのコーティングを施してパワーを稼ぐなどの状況がある現在、ダウンパワーやフィルパワーは本来正確な表示をするための統一規格でしたが、実勢を正確に現しているとは思えない現状があるのも事実です。

意味が無い(とまではいいませんが)ダウンパワーだけの競争が行なわれているのです。

結論:羽毛の質が良いか、そうでないかが重要 ダウンパワーの数字を過信しないこと

このダウンパワー数値と実際の羽毛の質との差は、長年割り切れない疑問でしたが、今回結構明瞭になりました。ダウンパワーの数値は目安に過ぎない、ということです。過信も盲信もするべきではないのでしょう。

本物の良い羽毛は、手間暇かけて育てられているため、価格もそれなりにします。特にトップグレードの原料は取り合いになるので、安く出ることなどありえないのです。高騰を続けているアイダーダウンが良い例でしょう。これは羽毛に限らず、どんな自然素材についても言えることです。

本来ならありえない量のマザーグースが出回り、ダウンパワーの数字だけの競争があったり。おそらく、一般に仕入れる小売店もわからないのではないでしょうか? おそらくですが、羽毛布団製造メーカーもダウンパワーの数字と価格だけを根拠に製品企画をしている現状からみると、非常にあやしいのです。

自らが仕立てているからこそ理解できる羽毛のパワーの違い

私たちは羽毛布団を自身が実際に作っているので、羽毛のパワーの違いを意識できますが、通常の場合は数字だけを信用するしかない状況になってしまいます。少しでも数値の高いものを安く仕入れたい、ありえないと内心思っていても、つい求めてしまうというのも、気持ちとしては理解できるからです。

もちろん、羽毛の価値はダウンパワーだけではありません。きれいに洗浄できているか、ダウンファイバー・フェザーファイバー・夾雑物などのゴミが少ないかどうか、ベールごとの品質のばらつきがないか、羽毛を育てる現場の農場から、それを選別し洗浄・除塵を行なって管理する、それぞれの細かなプロセスの違いが本物を生みます。

数字だけに惑わされない、本当の価値を理解しないといけない、改めてそう感じました。

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