快適な羽毛ふとんを作るためには、どのような生地が最適なのかを、睡眠環境工学から考える
羽毛布団の生地は軽い方が良いのか、重くてもいいのか?
側生地はダウンプルーフをかけない方が良いのか?
ポリエステル混の生地が多いがそれでいいのか?
2017年9月6日に開催された日本羽毛ふとん診断協会の情報交換会は、元日本睡眠環境学会の会長をなさっていた、元近畿大学の梶井先生の講演でした。
先生の講演は久しぶりでしたが、現在抱えている上記の問題の大きな解決となりました。
この講演を元に作ってみたのが、下図のようなモデルです
羽毛布団の生地と吸湿性・通気性に関する考察
下側がヒトで、ヒトから発散される汗(不感蒸泄)の水蒸気がどのようにして羽毛ふとんに吸収発散されるかのモデルです。もちろん、実際にはパジャマやカバーの素材、日射や輻射熱等さまざまな因子が増えますから、もっと複雑になります。
快適な寝床内の温湿度は33℃50%といわれます。この時に絶対湿度は0.017(ですが、この絶対湿度で温度が29℃の場合相対湿度は90%となり、相当湿気が多い=不快指数が高い状態です。つまり、快適な睡眠を得るためには、布団には湿度をうまく吸って発散させるメカニズムが欠かせません。
湿潤熱と気化熱
身体から不感蒸泄として発散される水蒸気は、掛ふとんや敷ふとんに取り込まれ、吸収されたり発散されたりします。
一般に生地が水分を吸収すると、湿潤熱という熱を発生します。これは羊毛(26cal/g)や羽毛が大きく、綿(11)や麻(11~13)は中間で、ポリエステル(0~1)などの合成繊維はほとんどありません。ウールが暖かいというのは、これに寄ります。
一方、生地に含まれる湿気を水蒸気に換えて放散させる(=乾燥させる)ためには約600kcal/kg(気化熱は539kcal/kgですが、水分の温度を上げるための熱量も必要です。なお両方ともk単位なので、実質は湿潤熱と同じと考えます)の熱量が必要です。
このモデルから言えるのは、水蒸気を生地に吸わさない方が良いということです。
湿気は水蒸気のまま布団に入るべし
つまり、生地が厚かったり、何層にも重なっていたり、通気度が低かったりすると、水蒸気は一旦生地に水分として取り込まれます。その後、身体の熱でふたたび気化して中わた素材に取り込まれ、発散していきます。これは、再び中わたから、側生地を通じて上に発散させられる場合も同様です。
通気度の確保が第一
水蒸気のまま移動させるには、高い通気性が必要です。水蒸気の移動は空気の環流とともに行なわれます。乾いた空気を取り入れて、湿気を放出していくためにも、通気性は非常に重要です。
1cc未満のポリエステル素材の側生地は論外として、快適な羽毛ふとんを作るには通気度の高い生地を使うべきです。綿100%で一般的な羽毛ふとん生地の通気度は1.5ccほどですが、眠りのプロショップSawadaオリジナルSB100生地は3.5cc、ヨーロッパ直輸入のTE270生地は6.0ccあります。
羽毛ふとんだけでなく、他の素材でも同じことが言えます。つまり羊毛敷ふとんはビラベック社の羊毛敷ふとんのように、ニット生地で通気性が良いものほど、暖まりやすく、乾きやすくなります。真綿ふとんや木綿わたふとんでも、ガーゼのような生地の方が優れています。
羊毛布団用生地は、ダウンプルーフ同様、吹き止め防止用のウールプルーフがかかっているために、通気性が落ちます。このあたりはあまり顧みられることがありませんが、快適な睡眠環境を得るためには重要なポイントとなります。
ポリエステル生地は通気度が低く、湿潤熱も得られない
何度となく述べていますが、ポリエステル生地やポリエステル混生地は、一般の綿100%の生地より、通気性が非常に悪いという性質があります。通気度は0.7cc程度のものがほとんどで、これでは空気の環流はのぞめません。
さらにポリエステルは湿潤熱が得られません。温湿度調節能力としては、全く不十分ということになります。
薄手の生地は乾きやすく、暖まりやすい
生地が厚い(重量が重い)と、生地に含まれる水分量が増えます。重い生地は135~150g/㎡、逆に軽い生地だと69g/㎡ですから、含まれる水分量が倍もあります。通気性が良くて軽い生地だと、水分量は少なく、通気性が良いために発散性も優れます。
さらに、軽い生地の羽毛ふとん側だと熱容量が少ないので、暖まりが速いという特徴があります。生地が湿気を含む場合、その湿気を放出されるために必要な熱量を考えると、軽いほど暖まりやすいことになります。
ノンダウンプルーフ生地は吸湿が良い、はこのモデルでは、あまり関係ない
あるメーカーは、ダウンプルーフをかけていない生地を使っているので、ダウンプルーフ生地より吸湿性が良く優れているとPRしています。吸湿性が良いことは事実だと思います。
ところが、上のモデルでは、水蒸気が生地に吸収されてしまうのであれば、あまり大きな違いはないことになります。
逆にノンダウンプルーフの生地は、ダウンプルーフ加工の生地より生地密度が高く、重量があります。60サテンで通常は135g程度ですが、ノンダウンプルーフは160gとかなり重量が増えます。これは生地密度を上げているためです。通気性もそれほど期待できないので、ノンダウンプルーフの羽毛布団が優秀であるとはいえないと思います。
一例を挙げます 60番手の標準的なサテン(蔭山E6060)は通気度が1.6cc(洗濯後3.7cc) 136g/㎡ 打込みが361本ですが、 ノンダウンプルーフのオビキスサテンは 通気度は2.0cc(洗濯後1.7cc) 160g/㎡ 打込み385本です。
参考資料:シングルサイズの羽毛側に吸収される水分量
シングルサイズの羽毛布団側に必要な生地量は160cm巾で約4.6mですが、ここでの側生地重量はシングルの標準側縫いサイズ 155×220cm=6.82㎡から計算した生地だけの重量です。実際には縫製のためのマチ等や縫い代分重量が増えます。
標準的な木綿生地の含水率は8.5%(20℃65%RH)ですので、生地に含まれる水分量は下記のようになります。ノンダウンプルーフ60サテンと最軽量TE270生地では2.3倍も含まれる水分量が変わることになります。
当然、水分量が多いほど、乾きに必要な熱量が異なります。この水分量は平衡状態ですから、実際は水分を吸うともっと水分量は増えます。
記事の種類 | g/㎡ | 側生地重量(g) | 側の水分量(g) |
60サテン | 136 | 927 | 78.8 |
60サテン(ノンダウンプルーフ) | 160 | 1,091 | 92.7 |
80サテン | 114 | 777 | 66.0 |
SB80(80平) | 94 | 641 | 54.5 |
SB100(100平) | 85 | 580 | 49.3 |
TE200(110平) | 75 | 512 | 43.5 |
TE270(120/150平) | 69 | 470 | 40.0 |
側の水分量はシングルの側生地に標準状態(20℃65%RH)で含まれる水分量の計算値です。